水切りとはまさに「水」を「切る」もの

この写真は、ある施設の改修設計を行ったときに現地で実施した、雨水の流れを確認したときの様子です。玄関ポーチに屋根がかけられているのですが、その屋根に十分な水切りが設けられていないために庇側面を流れてきた水が天井側へと回り込んでいる様子がよくわかります。この時は晴れた無風の日にホースで水をかけて検証していたのですが、激しい降雨時で風も加わったと考えるとさらに奥の方まで水が回り込むことが想定されます。

下図の左側がその模式図で、断面が90度に曲がっているところで雨水が界面張力によって下面に回り込むという現象が起こっています。そこで建築では「水切り」という工夫をします。水切りの作り方にはいろいろなパターンがあるのですが、右側の模式図は側面に板状のものを庇の下端よりさらに下側まで取り付けるという方法(垂れを設ける、などと建築業界では言います)で、この部材によって水が回り込むのを防いでくれます。

左図)水切りが設けられていないので水が裏側に回り込んでしまう
右図)水切りを設けることで雨水を真下に落とすことができる  

この水の流れ方には正直私たちもびっくりしました。無風でも10センチ以上水が回り込んでくるというのは結構ショッキングな現象でした。と同時に適切な水切りを設けることが建物を長く使う上でとても重要だということを、実際の建物で検証できたのでとても良い経験になったと思います。水切りとは、文字通り「水」の流れを「切」るための工夫なのです。

ちなみに先日の記事で紹介した、平城宮跡のあずまやの軒先はこんな感じです。

軒先は瓦を5センチ程度前に出して”垂れ”を形成し、さらに鼻隠しと呼ばれる板の部分にも段差をつけていますので3段の水切りが設けられていることになります。なんてことのない建物と、前回は紹介しましたが、こういう細部にきっちり配慮がなされているのです。こういう細かい気配りが、特に雨の多い日本で建物を長く健全に使い続けるためには非常に重要になるのです。

ちなみに下の写真は、東京・上野にある東京文化会館(設計は日本建築界の巨匠:前川國男)のバックヤードへの出入口(ほとんど人目に触れることはない)なのですが、こんなところにもきっちり水切りが設けられています。出入口上部に設けられた庇は、形状そのものも大きな水切りのようになっているとも考えられますが、端部に小さな溝が掘られているのが見えると思いますが、これが水切りとなっているのです。(模式図参照)

ちなみにこの垂れの長さや溝の幅は2cmくらいは必要だそうです。1cm以下くらいだと回り込んだり溝を跨いだりして水切りの用をなさないという実験結果が紹介されています。へなちょこな水切りでは、水の表面張力や界面張力には勝てないということですね。

参考文献:石川廣三著 雨仕舞のしくみ 基本と応用(2004,彰国社)

なお、最近の住宅では屋根材は耐久性、軽量性に優れる鋼板を使うことが多いですが、曲げ加工のし易さという特長を活かして下図のように屋根勾配に対して水平方向と垂直方向に水切りを設けるというディテールにします。この写真の場合出幅は水平・垂直ともに2センチとっています。こういう配慮をきっちりするかしないかが建物の劣化に大きく影響します。

軒先の水切り
軒先の断面詳細図