松伯美術館 その2
前回の記事は、「内部空間の滲み出し」だけで書きすぎてしまいましたので、今回は内部空間の紹介です。
下の写真はロの字になった建物の中庭の部分ですが、手前半分はトップライトと総ガラス張りの壁面に囲まれた屋内(グッズ売り場)となっています。ですが、写真右に写っているタイル張の壁面が外部からずっと続いていて中のような外のような、不思議な空間となっています。美術館は要求される機能としてどうしても閉鎖された空間になりがちですが、ロの字型の平面と中庭によって閉鎖的な展示室との明暗のメリハリをうまく作っていると思います。作品の鑑賞は結構疲れるので、この空間のようにほっと一息つける場があるといいですね。ちなみに中庭には出ることもできます。
美術館は作品鑑賞のために直射光の取り入れ方が非常に難しく、基本的には可能な限り弱くした太陽光を導きつつ照明器具によって照度を確保するという方法を採用していることが多いです。ここでは、ハイサイドライトから光を導いていて、展示室には、いわゆる「窓」の類は一切ありません。そして受付、ショップ、通路といった明るさの欲しいところは中庭に面した位置に配置しています。下の写真の1/4円形に出っ張っている部分がハイサイドライトになっており、円形になった壁面から弱められた光が落ちてくる、という仕組みになっています。
そして、このレンガ張りの四角の箱にはなぜか既視感があって、何かに似ているなとずっと考えていたのですが、家に帰ってから昔撮影した写真データを見ていて「あーこれだ」と気づいたのは、アムステルダムのゴッホ美術館でした。(撮影したのはなんと2006年。もう14年も前のことでした。)これは、写真に撮った当時は全く知らなかったのですが、あのリートフェルトの設計のようです。ヘリット・トーマス・リートフェルトは建築に詳しくない人にはあまりなじみがないかもしれませんが、オランダの建築家でシュレーダー邸(世界遺産に登録されています)の写真を見たことのある人は多いのではないでしょうか。あるいは赤と青の椅子など。ちなみにゴッホ美術館は1973年に竣工しており、この建物の横に立つ新館は黒川紀章氏によるものです。新館の竣工は1999年。アルミパネルとガラスで出来たツルツルピカピカの新館に比べると、本館のまとったエイジングの雰囲気が断然良いなと思います。当時の写真を振り返ってみても、ほとんど本館のものばかりで、やはり時を刻むことのできる素材は素敵だなと改めて実感します。
村野氏の「10年後には見られるものになるでしょう」という名言は非常に重たく、時流に流されることなく何十年というタイムスパンの中で建築を捉えていらっしゃったのだと敬服します。
ベージュ色の落ち着いたレンガと真っ白のサッシの組み合わせがとてもよく似ています。意識されていたのか、単なる偶然なのかわかりませんが、どちらの建築も直方体の組み合わせで構成されていて、人間的スケールで控えめな佇まいが素敵ですね。そして両者ともレンガのエイジングが美しい。