建物概要

所在地:奈良県奈良市  構造形式:木造2階建て  延床面積:91.13㎡  主要用途:住宅

設計者自身の自邸で90㎡という限られた床面積の中に家族4人(夫婦とこども2人)の生活を成り立たせ、手入れをしながら50年先も健全に使い続けられる家を目指して設計を行った。

敷地は鉄道駅から徒歩圏内という都市部にありながら、古くからある池とその周囲に整備された公園と遊歩道のある自然環境に恵まれた場所にある。幹線道路から生活道路へと入る町内の入り口のような場所でもあり、交差点に建つコーナー建築としても認識されるような場所であるため、外観にも印象的な姿を与えたいと考えた。

敷地の面積は約150㎡と既存の住宅街の敷地としてはまずまずの広さがあるが、風致地区の指定を受けており、容積率は60%と指定されているため、床面積は最大で90㎡強となる。家族4人でゆったり暮らせる広さを確保するため、平面プランをシンプルにし、断面計画を工夫して、できる限り屋内を広く感じるようにする必要があった。

 結果的に、平面形は法規による壁面後退から導き出される単純な長方形とし、玄関ホールと階段を建物中央に配して、ホールから各居室に最短距離でアクセスする単純なプランとしている。

 公園に面した南西の角に、L型に大きな開口部と造り付けのソファを配置してこの住宅で最も気持ちの良い窓廻りを作りたいという確固としたイメージが初めて敷地に立った時に浮かび、その窓廻りのスタディから設計を進めた。前面道路は歩行者も車両の交通量も結構多かったので、リビングは2階に配置することとした。その結果、リビングの窓からはより良好な眺望を得られることとなった。

限られた床面積を広く感じられるよう、居室の扉は全て壁内に引き込める引き戸とし普段は開け放した状態で使っている。個室のある1階は座る・寝る姿勢でいることが多いことから、階高を2400mmまで下げている。そして、2階に配置して自由になったリビングの天井を勾配屋根なりにへの字に折り上げ、最も高い所で3,500mmとしている。1階と2階の天井高さのギャップによって、2階の空間がより広く感じられるようになっている。南西のコーナー窓に加え、書斎に設けた東側の窓からも視線が遠く抜けていくように配置しているため、実際の床面積以上に空間として広く感じられるようになっている。

50年後も健全に使い続けられるように、過酷な環境に晒される外壁には特に気を使い設計を行っている。軒の出を1,200mm、ケラバの出を900mmとし端部には板金による水切りをきっちり設けている。外壁には撥水効果のある焼杉板を雨水が捌けやすいよう縦張りとし、さらに目地押さえを設けた。室内を少しでも広く感じられるようリビングの窓は出窓とし戸袋を設けている。これらの雨仕舞上の配慮と戸袋が外壁面に凹凸を作り出し、単純な平面形を感じさせない陰影のある立面となっている。