建築物省エネ法の改正について

 今回は法律の話で、あんまり楽しくないのですが、設計者だけでなく、建築主となる方全てに関係する内容なのでぜひとも一読いただければと思います。

 建築物も他の産業部門と同様に省エネ化が進められており、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(以下、建築物省エネ法)が平成27年に施行されました。当初は大規模な建築物に限られていたのが、徐々に小規模建築にも適用され、最新の改定によって住宅の新築においては「設計者である建築士から建築主に対して省エネ性能に関する説明を義務付ける。」ことで省エネ基準への適合を推進することが決まっています(2021年4月から施行)。そのほか改築とか面積によって適合義務や努力義務(必ずしも適合してなくてもよいという緩和措置)が細かく決められていますが、以下の内容は、新築住宅を対象にお伝えしています。法律も建築設備もどんどん新しくなるのでキャッチアップしていくのが大変です。

 当初は例外なくこの法律に拘束されることになる予定だったのがトーンダウンして、住宅に関しては設計者に説明させるというところまでで、基準への適合義務化は先送りにされた形となっています。それは、建築主にとっても設計者にとっても基準に満足しているのかの判定のために行う計算が結構難しくてあまり浸透していないことが要因の一つになっているようです。少なくともこれからの時代の設計者は省エネに関して、わからないでは済まされないと思いますが。

 来年度以降(2021年4月以降)に委託を受け設計を行う住宅に関して、設計者は省エネ基準への適否(必ずしも適合していなければならない、ということではない)を建築主に説明し、適合していない場合はどのようにすれば適合するようになるかも説明しなければならない。そのうえで建築主には、努力義務(適合するように努力するが、適合しないからといって罰則等があるわけではない)が求められます。この説明については、書面にして残すことも設計者に求められます。なので、設計者が理解しているのは当然ですが、建築主にも最低限の知識は要求されます。

 では、どのようにして住宅の省エネルギー性能を判定するかというと、【外皮性能】と【一次エネルギー消費量】という2つの基準によって判定されます。【外皮性能】というのは建築物の外皮である屋根・外壁・窓・基礎・床(地面)の断熱性能のことです(外皮平均熱貫流率という指標を使う)。例えば断熱材をたくさん使っていれば外皮性能が高い、ということになります。【一次エネルギー消費量】とは冷暖房や照明、給湯設備など住宅に設置する設備機器でどの程度エネルギーを使用するかによって判定され、これは先ほどの【外皮性能】の影響を受けます。断熱性能が良ければ冷暖房に必要なエネルギーは少なくて済みます。そのほか、太陽光発電を行うシステムを搭載している場合にはエネルギー消費量から削減するなどの措置が取られます。

 まずは、外皮平均熱貫流率について、

 上図に示すように建物の外皮からどれだけ熱量を失うか(熱損失の合計を外皮平均で割ったもの)を外皮平均熱還流率(UA値(ユーエーちと読む))と定義し、8つに分割された地域によって定めた基準値以下にしなさい、というのが建築物省エネ法の定めるところです。奈良を含む西日本はほとんどの場所が5~7地域に分類され、要求されるUA値は0.87となっています。道東・道北といった冬の寒さの厳しい地域は1地域で、UA値は0.46となっています。ちなみにUA値は低いほど断熱性能は良いです。実感として納得できると思うのですが、熱損失は当然窓からが最も多く、それ以外の部分は断熱材をたくさん入れることが可能なのですが、窓はそうはいかないので、窓ガラスとサッシの性能を向上させなくてはいけません。

 これからの建築では、最低限の性能として複層ガラス+樹脂サッシか木製サッシは当たり前になるのではないかと考えています。

 そして、ここからが重要なところなのですが、この省エネ基準で定められた数値は決して達成困難な数値ではなく、むしろクリアして当然と言われるようなレベルであるので、適合義務はないですが、余裕でクリアしてさらなる高みを目指すべきとの指摘があるほどです1)。法で決められているからという消極的な理由でなく、快適な屋内環境を実現させるために断熱・気密の性能をきっちり確保し、当然基準もクリアしています、というのが理想ですね。

 次に1次エネルギー消費量について、

 住宅で使用されるエネルギーとしては主に電気とガスくらいでしょうか。それらは加工された2次エネルギーと呼ばれるもので一括りにして評価できないので、1次エネルギーである熱量(MJ:メガジュール)に換算した値として算出します。空調設備、給湯設備、換気設備、照明設備といった家庭内でエネルギーを消費する機器を全て入力し(計算は建築研究所が公開しているウェブ上のプログラムを使用します)、さきほどの外皮平均熱貫流率によってどの程度の熱的ロスが発生しているかを加味して、住宅全体として年間どの程度1次エネルギーを消費しているかを計算します。

 以上の内容は日本サステナブル建築協会というところから出されている「幸せなエコライフ よくわかる住宅の省エネルギー基準」という小冊子2)に分かりやすくまとめられていますので、参考にしてみてください。絵が豊富で、固い内容ですが読みやすくなるように工夫されています。

参考文献

1)前 真之 「エコハウスのウソ[増補改訂版]」日経BP社、2015年 ちなみに、エコハウスのウソ2も発売されています。私も買って勉強しなくては

2)一般社団法人 日本サステナブル建築協会 http://www.jsbc.or.jp/document/files/ecolife.pdf 

 今回はずいぶんと小難しい話になってしまいましたので、次回は「楽しい建築」をお届けしたいと思います。