LIXIL出版の終了

 少し前の発表になるのですが、優れた建築関係の書籍を出されていたLIXIL出版が終了するそうです。また1つ建築の文化を担ってきた出版社が消えてしまいます。今回の記事のタグは「悲しい建築」にしたいくらいなのですが、そんなタグを作るほど悲しいことはないので、LIXIL出版の素晴らしい書籍をご紹介することで「楽しい建築」としたいと思います。書籍の販売は2022年秋まで継続されるとのことなので、絶版になる前に気になる本はご購入されることをおすすめします。

 先ず、ご紹介したいのがLIXILブックレットシリーズ

 これは、建築というジャンルに全く関係のない特集もあり、というか本当に何でもありな企画内容で一体どのような基準でテーマが決められるのか見当もつかないくらい多岐に渡っています。この記事を書くために改めてブックレットのウェブサイトを見ていたのですが、例えば「キヨスク 駅の世相店」ってタイトル凄くないですか?キヨスクから世相を読み解こうとする切り口が素敵です。もう1つ紹介すると、「マネキン 笑わないイヴたち」….ここまでくると、なぜそんな切り口をしたのか!と仰天してしまいますが、「図説マネキン史」というのはちょっと見てみたい気がします(笑)。

 私はといえば、ブックレットシリーズは「中谷宇吉郎の森羅万象帖」「瓦 日本の街並みをつくるもの」「WASHI 紙のみぞ知る用と美」(なんと副題がダジャレです)を持っていますが、特に中谷先生の特集では貴重な雪の結晶の写真が満載で見ているだけで楽しくなります。

装丁の美しさも魅力のLIXILブックレットシリーズ

 そして、建築関係の本で特におすすめしたいのが、内藤廣さんの「著書解題」です。これは内藤さんが、若い頃に読んで感銘を受けた本を、改めて読み返した上で、その本の著者本人と対談を行うというとても贅沢な企画です。

自立するほどの大著 なんとページ数471 このボリュームで定価2,400円

 その対談相手が物凄い豪華なメンバーで順に名前を挙げると、磯崎新、長谷川堯、原広司、植田実、菊竹清訓、宮内嘉久、林昌二、槇文彦、川添登、石元泰博、伊藤ていじ(敬称略)。インタビューはその代表的な著書を中心にして行われるのですが、生い立ちを伺うところから始まって、学生時代の話題や戦争中の暮らしや政治の動きまで非常に多岐に渡っており、通読すれば建築界を中心にした戦前から高度成長期ころまでの日本の歴史をリアルに追体験することができます。特に衝撃的だったのが伊藤ていじさんの壮絶な前半生。それを知ったうえで改めて伊藤さんの残された業績を考えると、もう超人というしかありません。

 そして、やはり優れた建築家は聞き上手(クライアントが本当に欲しているものは何かを聞き出さなくてはいけないので)なんだなあと、内藤さんの質問の仕方や話題の展開のさせ方という点からも非常に勉強になります。

 特に、建築を学んでいる学生の方はぜひ手に入れることをおすすめします。雑誌の美しいグラビア写真もいいですが、建築家の語る言葉からものづくりに対する思想が見えてくるのではないかと思います。また、巻末には主要書籍・論文・建築作品の竣工・世の中の出来事をまとめた1964から2004までの年表が付いていて、その本が書かれた時代背景を知ることでより理解が深まることと思います。