大和文華館

奈良のモダン建築シリーズ 今回は大和文華館

大和文華館 設計:吉田五十八 竣工:1960年

長いアプローチの先に少しづつ建物が見えてくる

 この美術館は広大な敷地の一番奥、高低差のある敷地の最も高い位置に作られています。ということは入り口から登り坂となる長いアプローチを抜けた先にようやく建物があるという配置で、よく手入れされた林の中に少しづつ建物の姿が見えてくるという演出がなされています。

アプローチを登った先に姿を表すお城のような建物

 美術館に行くというと、少し肩肘張った緊張感をどうしても抱いてしまいがちですが、この長いアプローチがそういう浮き足立った気持ちを鎮めてくれます。そしてアプローチを登りきった先にお城のような、なまこ壁と漆喰塗りの幅広の壁面が現れます。実はこのなまこ壁の部分、なまこ壁と書きましたが、一般的なそれとは全く異なるもので、”文華館の壁”としか形容できないようなとても特殊な作りをされています。

 なまこ壁は通常、瓦を使います。瓦はだいたい30センチくらいなので、その目地(つなぎ目)を塞ぐ止水材として漆喰を塗ったものだったのが、次第に特徴的な意匠を施されたものへと発展していったのだと思います。おそらく止水だけであれば漆喰を盛り上げて塗る必要はないと思います。特に大和文華館のなまこ壁はデザイン的な効果を強調したものであるため、通常用いられるよりもかなり高く漆喰が盛り上がっています。そして凄いのは、通常瓦の用いられる部分、なんと小さなタイルで埋め尽くされているのです。そしてそのタイルの色合いがとても素敵で、緑青に近いグリーンが、松が多い周辺の環境にとてもよく調和しています。

 そして大和文華館を訪れたなら、必ず建物の左手にあるあじさいの小径から池の方に降りていってみてください。掲載される写真はほぼアプローチ側の事務所棟なのですが、実は池側の美術館展示棟の立面がとてもかっこいいのです。近代数寄屋を確立した吉田五十八のコンクリート造における和風表現への挑戦の結果がよく現れていると思います。ですがそんな難しいことを考えずに、豊かな木々に囲まれた馬蹄形のベンチに腰掛け、この空間を楽しんでいただければと思います。(お弁当を広げたりしてもいいのでしょうか?)

 ところでこの写真で見えるバルコニーへは出ることが出来ないのがとても残念です。このバルコニーは奈良のシンボル的存在である若草山を望むために設けられたもので、仕方がないので室内からガラスに顔をくっつけるようにして、「あーバルコニーに出られたらどんな風に見えるんだろうかー。出たいなー。」と悔しい思いをして帰路につきました。なんとかならないものでしょうかね(笑)

池側から展示棟を見る

展示室内は撮影禁止なので、実際に行ってその空間を体感してみてください。展示室はロの字型となっていて、その中央は中庭となっており、竹が植えられています。素晴らしい空間なので是非、ご自分の目で確かめていただくことをオススメします。

 最後に、下の写真は敷地内の案内図ですが、広大な敷地全体がさながら植物園のようになっており、1年中季節の花々が楽しめるようになっています。この美術館の素敵なところは、敷地の入り口に受付があるので、一度入場すると建物への出入りは自由になっているところ。美術品の鑑賞に疲れたら外に出て散策を楽しんで、それにも疲れたら屋内の渡り廊下にあるソファでくつろぐといった自由な行動が許されていますので、気軽に立ち寄ってみてください。近鉄学園前駅から徒歩7分です。