奈良県立美術館

 奈良県立美術館 竣工 1973年 構造形式 RC造2階建て

 奈良のモダン建築シリーズ前回の県立美術館は文化会館とセットにしてさらっと外観を紹介だけでしたので、今回は内部も合わせてご紹介しようと思います。松柏美術館とは違い、美術館建築として素直なプランになっています。正方形の平面を3つに分割し、その中央を階段・廊下スペースとし両サイドを展示室としています。エントランスホールは階段を配した吹き抜けとなっており、コンパクトな建物ですが、断面計画によっておおらかな空間を形成しています。2階部分が主に展示室となっており、1階には事務室やトイレが配置されています。

 2枚目の写真はエントランスホールの天井の照明。このドーム状に穿った穴に照明器具を仕込むというのはこの当時の流行りだったのでしょうか。前川國男の国立西洋美術館新館(1979年竣工)でも似たようなデザインが見られます。

 美術館建築としてあくまでも容器としての建築に徹している(間接光を取り入れることもしていない展示室は本当に純粋なハコになっている)ので、建築的見せ場はこのホールと後述する展示前スペースのみとなっています。予算が厳しかったのかもしれませんが、特段奇をてらうこともなく、非常に素直なつくりとなっており、建築が主張していないのでどんな展示にも対応できるのではないかと思います。美術館建築としては、こういう作りの方が正解なのかなと考えさせられます。美術館建築というと、著名建築家の建築作品発表の舞台となっているようなところがあって、建築のこれでもかといった主張によって、純粋に展示品を鑑賞出来なくなっているということがよくあります。

エントランスホールは2階までの吹き抜けとなっている
ホールの特徴的な照明

 この展示室前スペースにあるステンレス製の格子のオブジェ(?)は後から作られたもののようで、井上武吉という奈良県出身のデザイナーによって95年に制作された「my sky hole 95-1 NARA」という作品です。かなり著名な彫刻家であったようで、伊丹市平和モニュメントによって吉田五十八賞を受賞されていたり、前川國男の東京都美術館に作品が屋外展示されていたりと、建築界にもゆかりのある方だそうです(知らなかった・・・)。この作品はさらに外側に配されたサッシの格子との重なりを意識したもので、どこまでが建築としてのオリジナルなのかはわからないのですが、こちらの動きによって二重の格子が重なったり、ずれて見えたりと刻々変化していくシークエンスが楽しめるようになっています。作品鑑賞の束の間目の疲れをほぐしてくれます(チラチラして余計に疲れるという人もいるかもしれない(笑))。

東棟に配された展示前スペース
方形屋根のコンパクトな外観
東より見た美術館 大きく成長した木々の間に隠れるような佇まい
中央の綺麗な2つの正方形が美術館(google earthより)

 そして、県立美術館は向かいの文化会館と一体的に再整備するというプロジェクトが動いており、もしかしたら、取り壊して新築ということになるのかもしれません。現在、美術館北側の敷地が更地になっていて、そこも合わせた形で大きく拡張されるのでしょうか。このヒューマンスケールのフレンドリーなサイズが継承されるといいのですが。