今回はちょっと細かい話。でも、建築に限らず、複数のパーツを組み合わせてあるまとまった形に仕上げようとするような場合必ずこの「部材の勝ち負け」という判断を迫られることになります。特に建築では、異なる素材同士が様々な場所でぶつかるため、この勝ち負けの判断が重要になってきます。2つの異なる部材が出会うところで、一方の部材を抑えている側が「勝ち」抑えられている側が「負け」となります。実際には「負け」という言い方はせず、「ここの納まりは壁勝ちで」とか言います。

開口部にもうける枠を考えるとわかりやすいかと思います。枠は壁材を抑えるために必要な部材なので当然「枠勝ち」となります。下の図面は開口部を水平に切った断面図で「チリ7」と表記しているのは「枠が7ミリ勝っている」という意味になります。こんな具合で壁と床や壁と天井など異なる部材が出会うところで様々な勝ち負けが繰り広げられているのです。チリを0にできないのか、ということを考えてみると、やってできないことはないのですが(突き付けという)、人が行き来するような開口部の場合、高さは2mくらいあるので壁の部材であるせっこうボードの端と木製の枠をともにきっちり揃うように直線に加工するというのは施工の精度を考えるとかなり難しく、その場合どこかで隙間が生じたりして不細工になる恐れがあります。仮に出来たとしても、それぞれの部材は異なる挙動をするので経年とともに徐々に隙間ができてくる可能性が高いです。なので、どちらかの部材を勝たせて綺麗に納めるというのが一般的です。

開口部の枠が壁面より飛び出している枠勝ちの納まり
開口部枠の横断面

 ですが、このチリは無くせるのなら無くしたいと思うのは設計をしている人なら誰でも考えてしまうことで、なんとかしてすっきり納められないかといろいろな工夫が試みられています。例えば、下の写真iでは階段の手すりにちょっとした手間をかけてもらって以下のように「目透かし」と呼ばれる納め方をしています。これはチリ0にすると隙間が生じるのなら、最初から隙間を作ってしまえばいいじゃないか、というやり方です。これは目透かしの溝の深さや巾を変えることで様々な表情を作ることができます。異なる部材を同一面で納めることができるのですっきりとした印象になります。このように細かい作業を積み重ねていってようやく建築という1つのまとまりが出来ていくのです。そういうことを知らない人にとってみれば些細なことと思われるかもしれませんが、たとえそういったディテールに目がいかなかったとしても、直観として「いい空間だな」と感じることがあると思います。それはきっと細部にまで行き届いた配慮があって、初めてそのような空間が出来上がっているのだと思います。もしそのような空間に出会うことがあれば、少し目を凝らして細部を見てみてください。きっと楽しい発見があると思います。

目透かしで納めた階段の手すり

 

 前回の記事でご紹介した「半外付けサッシ」は下図のようにサッシが外壁に勝つ形で納まります。外壁面より少しだけはみ出していることが分かると思います。これは先述した通り施工性に加え雨仕舞を考慮した納まりで、住宅用のサッシではほとんどこのタイプが採用されているかと思います。外壁側に合板を張り付けた段階でサッシを取り付けます。下の写真(図面とは一致していません)1枚目はサッシの取付けが完了し、これから外壁を張ろうという状態です。サッシが勝っているので、外壁はサッシの側面できちっと止まるのです(写真2枚目)。これを外壁勝ちにしたり同じ面で納めたりしようとすると納まりが複雑になり、結果として雨漏りのリスクも高まります。

半外付けのサッシを取付たところ
半外付けサッシの納まり サッシが勝っている