このページでは2019年に竣工したhouse iを題材として家づくりがどのように行われるのかを紹介していこうと思います。
どんなにコストを抑えてつくろうとしても新築で1軒の家を建てようとした場合、2千万くらいはかかります。土地を購入してからということになるとその倍くらいかかります。ということはお金には全く不自由していないという羨ましい人でない限り、家を建てるのは一生で1回あるかないかという人生最大のイベントの1つであるといえます。それなのに建築がどのように出来ているのかということについて、建築の世界にいる我々があまりに発信していないのではないかという危惧があります。建築の専門でない人たちと話をすると、ほとんど決まって、家のこと何も知らないと言われてしまいます。自分の家を出て会社のあるオフィスビルに出社、ランチに使う飲食店の入っている商業ビル、帰宅前に立ち寄るスーパー、たまには同僚と居酒屋へということもあるでしょうが、それらは全て様々なタイプの建築の中で行われる活動なのです。私たちの毎日は建築が無くては成立しないのですが、こと建築については考えたこともないという人が多いのではないでしょうか。
建築雑誌には、おしゃれでカッコいい建築が掲載されていて、モデルハウスのような整然とした室内が写されています。でもそれは建築のほんの一部分でしかなく、しかもたいていの場合、身内の業界の中に向けて発信されているようです。
建築とは私たちがその中に入って活動を行うための器です。それが建築をそれ以外の工業製品や芸術作品とは異なるものにしている大きな理由です。工業製品のように精密なものではなく、構造躯体がしっかりしていれば100年前の建物でも使えたりします。絵画のように2次元ではなく、空間があり実際にその中に入ることができます。音楽は演奏されている間だけのものですが、建築は何十年もその場に存在し続けます。そういったクリティカリティの低さと、数十年(時には数百年)という時間を内包する運命にあるという特徴によって、建築が人類が築いてきた文化のひとつになっているのだと思います。
というわけで、どのようにして設計図面が描かれ、どのようにして実際にその建物が立ち上がるのかというプロセスをご紹介しようと思います。少しでも家づくりを考えている人々のお役に立てれば幸いです。
場所
建物を建てる場所を決定する
これがまず最初の難関ですね。先祖代々暮らしてきた場所に建て替える・改修する、あるいは希望に沿った(あるいは妥協の果てに)土地を購入する、だいたいこの2パターンになるのではないかと思います。もともと誰のものでもない地球の地面が細かく分割され、敷地となって値段がついてそれを購入するというのも考えると不思議なシステムですが、ここではその部分に深入りせず現実としてそうだとして話を進めましょう。
もともと所有している敷地がある場合はよいのですが、house iでは土地探しからスタートしました。ひたすら不動産屋さんのホームページをチェックし気になるものがあれば現地を見に行き、意気消沈して帰宅するという繰り返しでした。場所探しを始めて3年くらい経ったころようやく、納得のできる敷地が見つかり設計がスタートしました。いいなと思う場所は人によって様々でしょうが、この段階で建築の専門家にアドバイスをもらうのが良いと思います。地盤の良し悪しや住居専用地域などの用途区分、建蔽率や容積率といった法規からどのくらいのサイズの住宅が可能かなど、専門的な知見からの助言をしてもらえると思います。
特に近年は大規模な災害が毎年のように発生しており、洪水ハザードマップや土砂災害危険区域などといった専門用語もニュース等でよく耳にするようになってきました。古くから人の住んでいるような場所は比較的問題は少ないかと思いますが、土を切ったり・盛ったりした新興住宅地のような場所やかつての氾濫原とか田んぼであったような場所は地盤になんらかの弱点がある可能性があるので注意が必要です。
土地探しから始める場合は納得のいくまでじっくり検討をして決めることをお勧めします。高価な買い物なので即決する人もあまりいないとは思いますが、ぜひとも専門家の知識を活用してもらえればと思います。区画整理で最後に残ったような変形した土地などは、周囲と比較して安く販売されていることもあるので、そういう物件もおすすめです。設計を生業としている私たちはそういう困難な条件でこそ、建築的なアイデアでなんとか魅力的なもににしようとする性質があるので、「こんな土地でどうだ!」と言わんばかりに設計事務所に投げつけてみるのも一つの手かもしれません。(笑)