今回は収納について。生活する場ではない収納スペースに関してはどうしても後回しにされがちですが、計画の初期の段階でしっかりスペースを確保しておかないと、あとから適切なだけの空間を確保するのは難しくなります。収納は小さくてもいいから、少しでも居住空間を広くするように作ってしまうと、その後に続く長い生活をごちゃごちゃとしたたくさんの物に囲まれて過ごさなくてはならなくなってしまいます。

 収納があればあるだけ物が増えてしまうというのも、もちろんその通りなのですが、所有物に対して若干余裕があるくらいの収納は必要だと思います。そして1年新築した自宅で生活してみて実感するのが、

 日常的に使う物は、必要となる場所の近くに収納されている

ということ。例えば1か所に大きな納戸のような部屋を作って、そこに全て放り込むということをするとおそらくそこにあるものは永遠に使われずじまいになる可能性があります。小さな収納スペースが点在していることが重要です。

 下の図は収納のためのスペースとして、設計の時点で考えていたところに着色したものです。それぞれの収納量としてはさほど多くはないですが、必要となる場所の近くにその物を収納できるように点在させていることがお分かりいただけると思います。意外と物の必要となるリビングにはソファ下に引き出し収納を設けています。そしてテレビ台の幅を2m強と少し大きめに作って収納力をアップさせています。トイレ内の収納や洗濯機の上など板1枚でもいいので棚を作っておくとトイレットペーパーの予備や掃除用具など収納することができます。そして勾配屋根であれば小屋裏の検討をぜひともおすすめします。天井高さ1.4m以下であれば床面積に含まれないので、特に小さな家では重宝すると思います。

 下の写真は玄関扉の横に設けた外部用の収納です。これは戸建て住宅であれば庭の有無によらず絶対必要だと思います。後から庭の隅っこにスチール製の物置を置いたりすることが多いと思いますが、せっかくの庭が狭くなってしまいますし、何よりもあまり美しくない(笑)そして建物と一体に計画しておくと内部からもアクセスできるというメリットがあり使い勝手が格段に良いです。

玄関ポーチに設けた外部収納

 それから、キッチンの近くにパントリー(食品庫)も絶対必要だと思います。今回のコロナや災害時といった非常時に備えて2~3日の食料品のストックがあると安心ですし、夫婦共働きの世帯では週末に1週間分の食材を買い込んでストックしておくというスタイルが多いのではないかと思います。そして、ある程度奥まった場所にしておくと、多少ごちゃごちゃしていてもダイニングやリビングからは見えないとうメリットもあります。常にすっきり片付けておくのはなかなか難しいですからね。

ソファ下の引き出し収納
階段下のトイレは天井が低いため便器後ろにタテ型の収納を設けた
本棚は壁を張らずに柱間に造り付けスペースを有効に活用している

 今回のコロナ騒動を受けて、私たちの生活習慣も随分変わっていくのではないかと思います。建築業界でも早速コロナ後の生活に対応すべく、大きなワンルーム的に作って仕切りをあまり設けないというスタイルが主流でしたが、やっぱり個室は必要だねという流れも出始めています。テレワークが進み自宅も職場のサテライトとして使うという機会が増えてくるだろうと思います。そうなるとやはりちょっと余裕があるくらいの収納力はますます重要になってきます。

 結局は、どんなことがあっても対応できるようなシンプルな、いい意味でルーズな器のような空間にしておくことに尽きるのではないかと思います。住み手もどんどん変わり、社会もどんどん変化していきます。そういう時代に、変わらずそこに存在し続ける「建築」の持つ価値が少しでも向上していくよう努力を続けたいと思います。