家づくりのプロセスも11回まできましたが、ようやく1番書きたかった内容である「窓」までたどり着きました。

「窓」は建築の部位の中で1番大事なもので、かつ設計の難易度も最も高いのです。「窓」の良し悪しで、その建築が作る空間が、心地よいものになるか、つまらないものになるかが決まってしまうからなのですが、窓の位置、大きさ、サッシの素材、雨戸や網戸の有無、サッシの動き方(あるいははめ殺しか)、障子かカーテンかなどなどとても多くの要素が関係してくる箇所なので、それらを統合する力量が要求されます。それらの課題を1つずつクリアしていき、でも最終的に出来がった窓は何事もなかったかのような、さらりとしたものとなるように心がけています。

 そもそも「窓」は何のためにあるのかと考えてみると、その役割は様々あることに気づきます。

 中から外を見ること(外から見られること)、それによって世界とつながること、日光・新鮮な空気・風といった自然環境を取り入れること、人やモノがそこから出入りすること、などなど。なので、窓を設計する際には、その開口部から何が出入りするのか、あるいは見る・見られるという関係といったその窓の持つ役割を明確にしてから位置や大きさを決定していきます。

 上の写真に示すような、その住宅における一番のポイントとなる窓(多くのケースでリビングの窓がそれに該当する)では、景色の良い方に向かって大きく開きくことで窓廻りに居心地の良い空間を作るようにします。たいていは自身の庭であったり、写真の事例のように借景として外部を取り入れたりします。

 最もベーシックな事例としては、1階のリビングに庭に面した掃き出し窓があり、そのまま外部のテラスに続いているというものでしょうか。そうするとその窓廻りにソファを配して、大きめのラグを敷いて、コーヒーテーブルがあってといったイメージが湧いてきそうです。設計を始める際にもやはり一番居心地の良い場所に、最高の窓廻りを作るところからスタートします。

 house i ではこの窓から上の写真の通り敷地の向かい側に豊かな公園が広がっており、この環境を取り込むための窓を考えるところから出発しています。部屋内から公園の緑だけが見えるように窓の大きさを決定しているので、通常であれば南側に大きな窓を設けるのですが、ここでは西側により大きく設けています(写真でオレンジのクッションの置いてある面が南、フロアスタンドの置いてある面が西となっている)。

 通常であれば避けたい西面に大きな窓を配置することになるため、夏の西日をどのように遮断するかが課題としてありました。ここでは古来から日本人が親しんできた障子を入れることで、明るさは損なわず、しかし直射日光は遮ることにしました。この障子の断熱効果は想像以上に高く、夏の日射もそうなのですが、冬の冷気の遮断にもとても高い効果を発揮してくれます。このように窓は外部の景色や新鮮な空気といった、よきものを導いてくれますが、夏の直射光や冬の冷気といった、あまり入ってきてほしくないものも同時に導くことになるので、その大きさや配置には非常に神経を使います。

 この窓では夏場の西日によるマイナスを補って余りある居心地の良さという魅力があるのでよし、ということにしています。そして、窓廻りの魅力という観点から、ここでは木製建具を採用しています。木製建具は、既製のアルミサッシと比較するとコストや水密性、気密性といった点でどうしても劣るのですが、そういったマイナス面を全く気にさせない魅力があると思っています。その魅力は何なのだろうとよく考えるのですが、あまり言葉でうまく言い表すことができません。なお、既製の木製サッシというのもあるのですが、コスト面でなかなか採用に至らないことが多いです。で、やっぱり多少の性能面でのマイナスを分かりつつ木製建具を作っていただくということになります。設計者の側からいうとその性能面をなんとか補うようにといろいろと試行錯誤をすることの楽しさは、既製のサッシの取り付け(これはまさに文字通り「取り付ける」という感じです)とは比較にならない楽しさがあります。すべてのパーツがアセンブルされた既成サッシに対して、引手や施錠の仕方やサッシのレールに至るまで全てを決定しなくてはいけないので、設計者の思想がそこに反映されます。当然、完成した後もその佇まいというか、存在感には独特の魅力が備わっています。これは一体なんなのか、いつかうまく言葉に出来ればいいなと思います。

 非常に複雑な条件を1つ1つクリアすることで成立する建築という行為には、100%希望通りとか想定通りということは先ずありません。その時に必要となるのが、では何を残して何を犠牲にするのかという判断なのです。それを突き詰めていくと、結局自分はどういう生活を望んでいるのか、どのように生きたいのかというところまで考えざるを得なくなってきます。それは日々の慌ただしい生活の中でさらなる困難を抱え込むことになるので、大変な作業には違いないのですが、それでも長い人生の中で考えるならば、住宅であれば設計に要するのは長くても1年くらいでしょうし、工事期間はほとんどが1年未満ですので、その後につづく長い人生について、1~2年ほど建築という行為を通じて1度じっくり考えてみるのも貴重な経験となるのではないでしょうか。と、偉そうに書いてきましたが、この文章は、だから、設計事務所に頼んでみるのも1つの選択肢としてどうですか、という営業活動につながっていくのです(笑)多少コストがかかっても、気密性が少々劣っていても、木製建具の魅力にはまっていますというかたは是非ご連絡ください(笑)一緒に最高の窓を作りましょう。

障子から漏れてくる灯かりには日本人の琴線に触れる風情があります