建物の一番外側で過酷な自然環境から私たちの暮らしを守ってくれる外部の仕上げの善し悪しが、建築物の寿命を左右する最も重要なポイントとなります。強い雨の多い日本では特に水を素早く地面へと流すことが大切です。そのためのディテールをきっちり積み上げて外部仕上げが出来ていきます。

 建築には「雨仕舞」という言葉があります。これは、「雨水が濡らす部位部材の形態と配置の選択によて表面や隙間の雨水を適切に処理し、不具合の発生を防ぐ。」1)と定義されています。下の写真のように、軒先の形状による水切りは雨仕舞の一種といえます。

 「雨仕舞は必ずしも漏水防止だけではなく、雨がかり防止や汚れ対策、濡れに起因する劣化の軽減などを含んだ幅広い概念」であって、水の浸入を完全に塞ごうとする防水とは全く異なる対策と言えます。雨仕舞は部材の形状等によって、水の流れを制御しようとするものであって、「防水がいかなる風雨の条件に対しても雨漏りさせない技術であるのに対し、雨仕舞を主体とする防雨納まりが有効性を発揮する風雨の不可には限界が」あるので、雨仕舞のディテールの工夫を万全にしたうえで、防水対策としてシーリング材を併用するのが妥当な判断だと言えます。

 参考文献1)石川廣三「雨仕舞の仕組み 基本と応用」2004年、彰国社

軒先の水切り形状

外部仕上げ

 外部の仕上げで最も大事なことは、とにかく早く雨水を地面に流し去ることです。そのために軒をしっかり出し、窓上部には庇を設けます。そうすることで外壁への雨かかりを極力少なくなるようにします。そして、軒と庇の先端に水切りをきちっと設けることがポイントになりますが、水切りの無い庇には界面張力によって驚くほど容易に軒裏に水が回ってしまいます。そして軒裏は通常水にさらされることを想定していないので、劣化するのはとても早くなります。その他、窓廻りも壁に穴が開いていると考えると雨仕舞の重要性はとても高いことが分かります。下の写真は某有名建築ですが、外壁の出隅に水切りが設けられていないため、雨水が軒裏に回り込んでペンキがはがれてしまっています。わずか20ミリほどの垂れを設けてあげるだけで水は切れるので、設計段階での配慮が後々のメンテナンスにも大きく影響してきます。

水切りを適切に設けていないと劣化が急速に進行する

 雨仕舞のポイントは ①雨がかりを減らし ②適切に水を切り ③素早く流し去る  

 

軒先端部の見上げ 板金による水切りに加え天井面にも溝を設けている

 house iでは外壁は焼杉板を縦に張っています。外壁でも床板でも同じなのですが、板を重ねて1つの面を作るような材料では実(さね)加工という下模式図に示すようなテトリスブロックのような形になっており、それを次々と重ねていくことで多少の伸縮が発生しても反対の面に水が外気が貫入しないようになっているのですが、それでも継ぎ目は雨仕舞の点からは弱点であることには変わりないので、ここではさらに押さえ縁を取り付けています。

 窓は既成サッシの場合、多くは「半外付け」と呼ばれるタイプが採用されていると思います。下の写真のようにちょっとだけ外壁面より外に出ているのが半外付けで雨仕舞の点からはこの納まりが最も効果的です。外壁面と同じ面で納める面一(つらいち)と呼ばれる納め方もありますが、雨仕舞の難易度が極端に上がります。面一の場合は水切りは設けられない(というか水切りやサッシが外壁面より飛び出すのを嫌って出てきたのが面一納まりなので、そもそも設けたくないという意図が働いている)のでシーリングだけで「防水」を行うことになるのでシーリングが切れてしまえば、雨漏りのリスクが高まります。この辺りは次回「部材の勝ち負け」でご紹介しようと思います。

 以上のような雨仕舞を考慮したディテールを積み重ねた結果が下の建物全景写真からうかがい知れるかと思います。

 平面形状は単純な長方形ですが、その単純さを感じさせない奥行きのある外観となりました。大きく出した軒、窓および玄関上の庇の水平ライン、それらの軒・庇が作る影、外壁押さえ縁によるリズミカルな陰影が特徴のある外観を作り出しています。

建物全景